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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)4683号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人池田和夫、同伊東清重の上告趣意は、被告人が本件において譲り渡しまたは譲り受けた麻薬が塩酸ヂアセチルモルヒネであることについては、被告人が第一審公判においてこれを自認するに止まり、これを補強する証拠は存しないから、原判決は被告人の自白を唯一の証拠として有罪の事実を認定したものであって、憲法三八条三項に違反すると主張する。しかし、第一審判決は被告人の公判廷または公判廷外の自白の外多くの補強証拠を挙げ、これらを綜合して判示塩酸ヂアセチルモルヒネ(通称ヘロインまたはペー)の譲渡または譲受の事実を認定しているのである。そして被告人の自白と右補強証拠と相待って、被告人が麻薬たるヘロインを取引した事実を認め得ることは、原判決の判示するとおりであるから、ただヘロインが塩酸ヂアセチルモルヒネを指すことについてのみ被告人の自供以外に証拠が挙げられていないからといって、憲法三八条三項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二三年(れ)第七七号、同二四年五月一八日判決、刑集三巻六号七三四頁)の趣旨に徴し明らかであるのみならず、通称ヘロインが塩酸ヂアセチルモルヒネを指すものであることについては、裁判所に顕著であって必ずしも証拠による認定を要しないものということができる(昭和二八年(あ)第六七五号、同二九年一二月二四日第二小法廷判決、刑集八巻一三号二三四八頁参照)。されば所論違憲の主張は採るを得ない。また記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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